「産後パパ育休」は2022年10月にスタートした、男性の育児休業取得を推進するための新たな制度です。
これまでの育児休業制度と何が違うのかをわかりやすく解説します。取得するための条件やメリットは?そもそもパパが育休を取得することでママは本当に助かるの?など、
ママたちの具体的な声を交えながら、産後パパ育休制度のポイントについて紹介していきます。
産後パパ育休とは?
産後パパ育休とは、育休の取得ニーズが特に高まる子どもの出生直後に、男性でも育休を取得しやすくなるようにと導入された制度です。2022年10月から施行されており、正式名称は「出生時育児休業」と言います。
産後パパ育休の特徴
産後パパ育休制度では、子どもの出生後8週間以内に、最大4週間(28日間)の育休を、最大2回に分けて取得可能です。普通の育児休業と最も異なる特徴は、育休期間中も就業できる点といえます。
通常の育児休業の場合は、就業することができません。一方、産後パパ育休制度を活用すれば、最大28日間の育休期間内に、最大10日間*1の就業が可能です。
つまり、仕事の都合上、長期間休むことが難しい場合でも、育休の途中で業務に対応できるのが産後パパ育休の大きなポイント。また、働いた分の賃金と育児休業給付金の両方を支給してもらうことが可能です。
産後パパ育休に期待されること
産後パパ育休に期待されることは、男性が育休を取得することへのハードルが下がり、男性の育休取得率が高まることです。
ちなみに、産後パパ育休の終了後も育休を継続する場合は、通常の育児休業制度を利用できます。産後パパ育休を取得せずに、初めから育休制度を利用することも可能です。
*1:10日間を超えて就業する場合でも、80時間以内であれば問題ありません。産後パパ育休期間が28日間より短い場合は、育休日数に比例して就業可能日数の上限も短縮されます。
<参考>厚生労働省「育児・介護休業法 改正ポイントのご案内」
パパの育児休業の取得状況を見てみよう
続いて、パパの育児休業の取得状況について解説していきましょう。「育休取得率」「育休期間」「ママの感想」に分けて、それぞれ解説していきます。
パパの育休取得率は約30%
まずは、パパの育休取得率についての解説です。ママノワユーザー232人にパパが育休を取得したかどうか調査したところ、以下の結果が出ました。
「育休を取得した」「現在取得中」を合わせると、約30%のパパが育休を取得したことがわかります。
驚くべきことに「取得不可能だった」という回答が42.7%もありました。
法的には「原則として1歳未満の子を養育する全ての男女労働者」が育児休業の対象者です。同じ会社に1年以上雇用されていて、子どもが1歳半に達するまでに労働契約が満了せず、週3日以上の所定労働であれば対象のはず。
しかし、給与や仕事の都合、各企業の雰囲気などにより、取得が難しい状況だったことが考えられます。
また「取得可能だったが、しなかった」というご家庭も、23.3%ありました。
問題は「育休を取得したかったのにできなかった」という場合です。そうした事態に対応するために、産後パパ育休制度が導入されたともいえるでしょう。
パパの育休取得期間は約50%が1ヵ月未満
続いて、パパの育休取得期間について解説していきます。
今回のアンケート調査では、「1ヵ月未満」が最も多く約50%、続いて「1~3ヵ月未満」が約30%でした。
通常の育休制度の場合、子どもが1歳になる誕生日の前日までに最大365日間の育休を取得できます。そう考えると、実際のパパの育休取得期間は短いことがわかります。
中には育休ではなく、有給を消化してママのサポートをした事例もありました。
一方で、3ヵ月以上の育休を取得したパパは少数派です。そんな中でも、パパが実際に「9ヵ月~1年」の育休を取得した事例の満足度は高かったです。
思い切って長期間の育休を取得してみると、家族にとってはプラスになりそうです。
パパの育休に約90%のママが「助かった」と回答
次に、パパが育休を取得したママに、その満足度を聞いてみました。
「大変助かった」と回答したママは約50%、「助かった」と答えたママは約40%。なんと約90%のママが、パパの育休取得に満足していたことがわかります。この満足度の高さに、育休の長さは特に関係がありませんでした。
一方で「あまり助からなかった」「まったく助からなかった」と回答したご家庭のパパの育休期間には特徴があります。このうち約90%のご家庭において、パパの育休期間が1ヵ月未満と短期間でした。満足度が低いご家庭の育休期間が総じて短い傾向に。これは注目に値するポイントだと思います。
パパの育休で助けられたこととは!
それでは具体的に、どんな部分でパパに助けられ、逆に助からなかったと感じたのでしょうか。ママたちに聞いた事例を交えながら解説していきましょう。
きょうだいの世話
パパに育児休業を取得してもらうメリットが最大限発揮されるのは、きょうだい児の子育てを任せられる点かもしれません。
上の子どもがいる場合、入院中や産後1ヵ月の期間をママが1人で対応するのは、むしろ不可能です。両親に頼ることが難しければ、パパの育休取得はマストといえるでしょう。
なぜなら下の子どもの出産時は、上の子もまだ小さい場合が多いからです。幼稚園や保育園の送り迎えが必要だったり、遊び相手をしたり。食事の用意はもちろん、お風呂にも一緒に入ってあげないと危険ですね。
赤ちゃん返りをする可能性も高く、判断力が未熟な一方で、歩き回れるようになっている年頃だと思います。トイレトレーニングも重なる可能性があり、これまで以上に育児が大変になる時期かもしれません。
出産直後からある程度回復するまでの上の子供の幼稚園送り迎えや家事などをしてもらえたため(30代ママ)
ママのフォロー
出産時のダメージや赤ちゃんのお世話により、産後はしばらく思うように外出できません。その結果、人に会う機会が少なくなるため、パパが育休を取得してくれたら、よい相談相手になります。
たとえ明確な答えをもらえなくても、相談相手がそばにいるというだけでママの気持ちは少し楽になりそうです。
また、産後は慢性的な睡眠不足に陥るため、ママは精神的に不安定になりがちです。実際に、睡眠不足が続くとポジティブな出来事よりもネガティブな出来事に反応しやすくなるという調査もあるようです。
そんなときにパパが育休を取得して赤ちゃんを見てくれていたら、昼間に睡眠を確保できてママの精神面も安定しそうです。
家事や手続き
産後は出産時のダメージにより立っているだけでも辛いため、通常の家事や機関へ手続きに出向くことさえ一苦労です。
特に産後1ヵ月は安静にしていないと体の回復が遅くなるといわれています。そんなときにパパが育休を取得して家事や手続きを担当してくれたら、ママの負担は軽くなりますね。
ちなみに、産後すぐに必要な手続きは以下の通りです。
出生届 | 出生日から14日以内に住所地・本籍地・出生地のいずれかの市区町村役場に提出 |
健康保険 | 出世届の提出後すぐに、加入している健康保険組合に申請。申請期限を過ぎた場合は出生日ではなく申請日から保険が適用される場合あり。その際、出生日から退院までの赤ちゃんの医療費が全額自己負担となる点は注意点 |
乳幼児医療費助成 | 乳幼児が医療機関を受診した際に医療費を助成する制度。健康保険に加入して保険証を入手後、居住地の自治体に従って申請 |
この他にも、出産育児一時金や出産手当金など、さまざまな手続きがあります。パパが育休を取得して漏れがないか確認しながら手続きをしてくれたら助かりますね。
<参考>法務省「出生届」
<参考>日本赤十字医療センター「出産後の手続き」
ママが仕事に行けた
赤ちゃんを保育園に預けることができる月齢は、一般的に生後2ヵ月(生後57日)以降です。また、園によっては、これより遅かったり、定員オーバーで入れなかったりする可能性があります。
その結果、出産後なるべく早めに仕事復帰をしたくても、赤ちゃんの預け先がない場合があります。そんなときに、ママではなくパパが育休を取得したり、夫婦で分割取得して交互に面倒を見ることができれば、ママも仕事に行けますね。
パパの育休中にイラっとしたこと
パパに育休を取得してもらってよかったと答えるママがいる一方で、イラっとした事例も挙がっていました。
ここからはパパの育休取得が、かえってママの負担になった具体例について解説していきましょう。
家事や育児に消極的
パパに育休を取得してもらう一番の目的は、家事や育児の分担といっても過言ではありません。
それにもかかわらず、パパが家事や育児に消極的だったら、追加一人分の食事作りと部屋に舞うホコリが増える分、かえってママの負担が増加してしまいます。
そんなときに「ママじゃないとわからないから」「ママじゃないと泣くから」。こんな発言をされたら、ママだって初めての育児で戸惑っているのに、相当イラっとしそうです。
きっと「自分で対応して!」と怒鳴りたくなりますよね。
その結果、パパと喧嘩になって互いに消耗するくらいなら、もはや育休を取得してもらわないほうがマシだと思えてきそうです。
子どもが泣いても気づかない
ママは赤ちゃんの泣き声がした瞬間、夜中でもパッと目覚められるのに、なぜか気づかないパパが多いですよね。それとも気づかないふりをしているのでしょうか。
「夜泣き=授乳=ママしか担当できない」という固定概念は、捨て去ってほしいものです。
授乳しても、おむつを替えても、赤ちゃんが泣き止まず、ひたすら赤ちゃんをあやしながら夜中に涙を流すママの姿を想像したことがあるのでしょうか。
育休を取得しているなら、パパだって昼間に仕事をする必要がありません。一緒に起きて赤ちゃんをあやし、その間、どうかママに睡眠時間をください。
昼間だってママに任せきりにせず、赤ちゃんに最大限の注意を払ってほしいものです。育休は昼寝したり、スマホに夢中になるためのパパの休暇ではありません。
スマホやゲーム
育休取得中にスマホやゲームに夢中になっているパパたちは、育休を休暇と勘違いしているのでしょうか。育休は育児という大切な仕事に専念することが目的の時間です。
特にきょうだい児がいる場合は、パパの出番がたくさんあります。
赤ちゃんが生まれたばかりの上の子どもは、親の愛情不足を感じて不安になる傾向があります。そんなときにママは下の子、パパがスマホばかり見ていたら、不安は増すばかりです。
赤ちゃんの情緒も、親からの温かい反応により育っていくのに、パパがスマホやゲームに夢中になっていたら反応してあげられませんね。
イラっとしたことはない
なかには育休取得中に、完璧にパパや夫としての役割を果たした男性もいました。しかし、こうした男性が育メンと評価されるのも、違和感のある時代になりました。
「育児や家事は女性が中心となってするもの」という思い込みがなくなり、互いに納得感のある役割分担で育児・仕事・家事を両立できるといいですね。
以上、育休を取得して「助かった」という事例と「助からなかった」という事例について解説しました。続いて、産後パパ育休と通常の育休の違いについて、改めて確認しておきましょう。
産後パパ育休と育児休業の違い
両制度の違いを表にまとめると以下の通りです。
産後パパ育休 | 育児休業 | |
取得可能日数 | 4週間(28日間)まで | 1年間(365日間)まで ※女性の場合は産後休業含む |
取得可能期限 | 男性:子どもの出生後8週間以内 女性:産後休暇後8週間以内 |
原則、子どもが1歳になる誕生日の前日まで ※保育園に入れないなどの条件下では最大子どもが2歳になる誕生日の前日まで |
取得開始日 | 出産予定日から ※出産予定日より早く生まれた場合は出産日 |
男性:子どもの出生日から 女性:産後休業の終了日の翌日から |
分割取得 | 最大2回まで分割取得可 | 最大2回まで分割取得可 |
申出期限 | 原則休業の2週間前までに人事部などに申出 | 原則1ヵ月前までに人事部などに申出 |
育休中の就業 | 労使協定を締結している場合に限り、従業員が合意した範囲内で可 | 原則、就業不可 |
一番の違いは、育休中に労働者が就業できるかどうかです。また、産後パパ育休の場合は、取得期限が出生後8週間に限定されている点もポイント。
産後パパ育休は、ママが心身ともに一番疲弊しやすい出生後に、パパの育休取得を促進することが狙いです。そのために就業を一部OKとして、柔軟な働き方を提案しています。
<参考>厚生労働省「育児・介護休業法 改正ポイントのご案内」
産後パパ育休・育児休業の給付金を知る
産後パパ育休の導入により、仕事の遅れに対する不安が軽減されても、給与が減少することへの心配は残ります。
たとえ育休中は社会保険料が免除されるとしても、実労働時間が減る分、収入の減少は避けられないような気がしますね。
実際に、パパが育休を取得する場合、どれくらい金銭的なサポートがあるのでしょうか。ここからは産後パパ育休や通常の育休中に支給される給付金制度について解説していきます。
育児休業給付金
育児休業給付金とは、通常の育休中に雇用保険から支給される給付金です。専業主婦(夫)もしくは個人事業主の場合は雇用保険に加入していないため、育児休業給付金はもらえません。
支給額は育休前に支払われていた賃金の67%相当です。育児休業中は社会保険料などが免除されるため、これは育休前の手取り80%にあたります。
<育児休業給付金の計算式> 育児休業給付金支給額 = 育休開始時賃金日額×育休期間の日数×67% ※育休181日目以降は50%で計算 |
ちなみに、育休が取得できる期間は、原則として子どもが1歳になる誕生日の前日まで。ただし、保育園に入れないなどの要件があれば、最大で2歳になる誕生日の前日まで延長することが可能です。その間、育児休業給付金の支払いは継続されます。
原則として雇用主である企業の人事部などが申請手続きを行いますが、事前に会社に確認しておくと安心です。
次章では、産後パパ育休中にもらえる出生時育児休業給付金について解説します。
<参考>厚生労働省「育児休業給付について」
<参考>厚生労働省「育児休業給付の内容と支給申請手続」
出生時育児休業給付金
出生時育児休業給付金とは、産後パパ育休を取得した場合に適用される育児休業給付金制度です。通常の育児休業給付金制度と同様に、支給額は育休開始時賃金の67%で計算されます。
それではなぜ、支給額の計算式が同じなのに、通常の育児休業給付金と区別した名称がつけられているのでしょうか。
前述した通り、産後パパ育休を取得する場合は、育休期間中に就業することが認められています。そのため、産後パパ育休中に企業から賃金が支払われる場合があり、その額に応じて給付金の支給額が調整されるからです。
<出生時育児休業給付金の計算式>
支払われた賃金の額 | 支給額 | |
① | 「育休開始時賃金日額×育休期間の日数」の13%以下 | 育休開始時賃金日額×育休期間の日数×67% |
② | 「育休開始時賃金日額×育休期間の日数」の13%超~80%未満 | 育休開始時賃金日額×育休期間の日数×80%―賃金額 |
③ | 「育休開始時賃金日額×育休期間の日数」の80%以上 | 支給なし |
表の②③の計算式の場合、育休中は社会保険料が免除となるため「賃金」と「育児休業給付金」の合計が、育休前手取りの100%相当になります。
しかし①の計算式の場合は「賃金」と「育児休業給付金」の合計が育休前手取りの100%に満たないケースがあります。
そこで、新たに「出生後休業支援給付金」が2025年4月からスタート。次章で詳しく解説しましょう。
<参考>厚生労働省「育児休業給付について」
<参考>厚生労働省「育児休業給付の内容と支給申請手続」
<参考>厚生労働省「育児休業、産後パパ育休や介護休業をする方を経済的に支援します」
出生後休業支援給付金
出生後休業支援給付とは、育児休業給付金の支給額が、夫婦ともに*2手取り100%まで引き上げられる制度です。
給付条件として、企業の従業員であることを前提に、以下の要件を満たすことが必須です。
<給付条件> ・夫婦ともに、子どもの出生直後の一定期間内に14日以上の育児休業を取得すること ・一定期間とは、男性の場合は子どもの出生後8週間以内、女性の場合は産後休業後8週間以内 |
<支給額の計算式> 出生後育児休業給付金= 育休開始時賃金日額×最大28日間×80% ※育休中は社会保険料が免除されるため、手取り100%に相当 |
この「出生後休業支援給付金」の新設により、育休開始から最大で28日間分の収入が、育休前手取り100%相当になるように保障されます。
この給付金も雇用主である企業の人事部などが申請手続きを代行してくれますが、事前に会社に確認しておくと安心です。
*2:専業主婦(夫)もしくは個人事業主の場合は雇用保険に加入していないため、出生後育児休業給付金の支給対象外。ただし、雇用保険の被保険者の配偶者が専業主婦(夫)・個人事業主・ひとり親家庭の場合、被保険者は出生後休業支援給付金の支給対象となります。
<参考>厚生労働省「子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律(令和6年法律第47号)の概要」
育児時短就業給付
最後に、産休・育休明けに支給される給付金について解説していきましょう。
育児時短就業給付とは、企業の従業員が「育児短時間勤務」制度を活用して働いている場合に支払われる給付金です。
「育児短時間勤務」とは、所定労働時間を通常の8時間から6時間に短縮して働ける制度のこと。
従業員が企業に申し出ることで、子どもが3歳になる誕生日の前日まで利用可能です。企業によっては3歳以降も利用できる場合があります。
この制度は育児時間を確保できる点はメリットですが、実労働時間が減少する分、給与も減少してしまう点がデメリット。それをカバーするため、25年4月から「育児時短就業給付」が新設されました。
具体的には、時短勤務をしている場合に、各月に支払われた賃金の10%が、子どもが2歳になる誕生日の前日まで、育児時短就業給付として支給されます。
この制度により、男性も女性も多様な働き方を選択しやすくなり、夫婦ともに仕事と育児を両立できる環境の実現が期待されています。
こちらも雇用主である企業の人事部などが申請手続きを代行してくれますが、事前に会社に確認しておくと安心です。
<参考>厚生労働省「子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律(令和6年法律第47号)の概要」
産後パパ育休のまとめ
「産後パパ育休」制度の詳細や、メリット・デメリット、もらえる給付金について解説してきました。
まとめると、産後パパ育休とは、企業の従業員として働いているパパが、子どもの出生直後に最大で4週間、取得できる育休制度です。
また、通常の育休と違い、企業と従業員が労使協定を締結している場合に限り、従業員の合意の範囲内で就業できる点が大きな特徴でした。
さらに25年4月からは、一定の要件をクリアすることで、育児休業給付金の支給額が最大で28日間分、育休前賃金の80%に引き上げられます。
育休中は社会保険料が免除されるため、この割合は手取り100%に相当することを解説しました。
産後パパ育休制度を活用すれば、給与の減少や仕事の遅れを最小限に抑えることができます。分割取得も可能なため、夫婦で取得タイミングを相談しながら、貴重な新生児期の子育てを「共に」楽しめるといいですね。
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