「スマホ育児」とは育児や子育てにスマートフォンやタブレットを活用すること。
デジタル機器は学習・教育ツールとしても利用価値がある一方で、子どもの発達への悪影響を心配する声もあります。
とはいえ、家事や仕事を進めたいとき、公共の場などで動画やアプリに集中してくれると、ママとパパは助かりますよね。
これからはデジタル機器を上手に活用していく時代です。そこで、スマホ育児のメリットやデメリット、使用時のルールについてママたちに調査を行いました。
専門家による研究データなども解説しながら、子育てでのスマホの適切な使い方をご案内していきましょう。
スマホ育児をアンケート調査
アンケート調査から、スマホ育児をする理由とイメージについて、ママたちの声をご紹介しましょう。
スマホ育児をする理由
ママたちがスマホ育児をする理由は、以下の通りでした。
1位:子どもが静かにしてくれる 31%
2位:利用していない 27%
3位:知育や学習 16%
4位:家事がはかどる 15%
5位:ママの時間ができる 6%
6位:子どもの理解を助ける 2%
6位:子どもが求める 2%
8位:その他 1%
最も多かった理由は「子どもが静かにしてくれる」でした。この理由の背景には、公共の場などで子どもがぐずった際に、周囲に迷惑をかけないよう配慮するママの目的が浮かびます。
また「家事がはかどる」「ママの時間ができる」といった理由も計21%と、育児以外の作業をしたいときにも利用されることが多いようです。
他には「知育や学習」「子どもの理解を助ける」といった理由が計18%と、教育目的でも利用されていました。
スマホ育児に抱くイメージ
とはいえ、スマホ育児に後ろめたさを感じているママは多いようです。アンケート調査では「あまり良くない」「悪い」と思っているママが7割を占めました。
スマホ育児に対する公的機関の注意喚起や、世間の目にママたちが影響されているのでしょうか。
例えば、小児科学会では子どものデジタル機器への接触時間を2時間以内にすることを推奨しています。また、公共の場で子どもにスマホを使用させたときに、周囲の人から嫌味を言われたというママもいます。
スマホは便利である反面、多くの保護者は罪悪感を持ちながら育児に活用しているようです。
スマホ育児のメリット
続いて、ママたちが感じるスマホ育児のメリットを解説していきましょう。ここでは乳幼時期だけでなく就学時期も視野に入れた回答が上位にきています。
【1位】教材や学習アプリで学習できる
デジタル化が進む今の時代、子ども向けのさまざまな知育・学習アプリが利用できます。
英語の発音を聞けたり、絵本を読み聞かせてもらえたり、文字をなぞって書き順を覚えたり。ゲーム感覚で計算能力を鍛えられるアプリもありますね。
どれも子どもたちの年齢や理解状況に合わせて工夫がこらされていて、保護者が解説するより夢中になって学習してくれることも。
学校でもタブレットの利用が進んでおり、デジタル機器の活用は学習効果があると8割の先生が評価しています。
【2位】知識や情報を得ることがきでる
YouTubeなどの動画投稿サイトでは、世界中のコンテンツから知識や情報を得ることが可能です。
視聴者にとって分かりやすく楽しい動画が多いため、保護者の指示なしでも子どもたちは自ら進んで情報収集を行います。
実際に、わが家でも小学生の娘が、動画サイトで作り方を調べて、スライムやバスボムを一人で作っていました。同じく小学生の息子は、サッカー系YouTuberがおふざけしながらサッカースキルを教えてくれる動画を見ながら、リビングで実際に試しています。
情報を集めるだけでなく、実際の行動につながる可能性があるのもメリットです。
【3位】興味や関心の幅を広げるきっかけ作り
オンライン上では、閲覧履歴からおすすめの動画が自動的に表示されます。例えば、わが家の小学生の娘はスライムづくりから料理動画をおすすめされて、今ではレシピ本を見ながら一人で料理を作れるようになりました。
他にも、スマホやタブレットで簡単に音楽づくりやデザインに挑戦できるサービスがあったり、美術館の展示物をバーチャルで鑑賞できたり。
デジタル機器の活用は、子どもたちの興味・関心の幅を広げるきっかけになります。
【4位】発達に必要な刺激を得ることができる
スマホのサービスやアプリには年齢に合わせたコンテンツが豊富です。教授などの専門家が監修しているものも多いため、子供の発達段階に応じて適切な刺激を得ることができます。
子供の成長に合ったコンテンツを利用するためには、アプリやサービスの対象年齢を確認することが大切です。例えば、Androidスマホの場合「7+」と表示されたアプリは、7歳より上の子供が対象年齢です。
【5位】集中力を養う
子どもたちがスマホで学習している際は、保護者も驚くほど集中していることがあります。
しかし、一般的には、スマホが目に入ると集中力を低下させてしまうことが、さまざまな研究調査で報告されています。実際に、スマホをつい手に取ってしまい、他の作業が中断されたという経験は大人でも多いでしょう。
逆にいえば、スマホを利用している際は、それほど集中しているということなのかもしれません。
スマホを育児に上手に使うポイントはルール決め
このように魅力的な機能がつまったスマホやタブレットだからこそ、使い過ぎを防ぐためにはルールが必要です。アンケートでは、約7割のママたちが子どもにスマホ使用時のルールを設けていることがわかりました。
Q:スマホ利用のルールを決めていますか?
はい | 69% |
いいえ | 31% |
育児や子育てにスマホを上手に活用するおすすめルールを解説していきます。子供だけでなくママにも守ってもらいたいルールも紹介します。
時間を決める
スマホ使用時におすすめのルールは、時間を決めることです。アンケートでは、以下のようなルールを設けているご家庭がありました。
・1回15~20分程度
・夜19時には自動的に終了するように設定
・食事のときは消す
「時間を決める」というルールは、小児科学会でも推奨されており、1日合計2時間までが目安です。2歳までの乳幼児や、赤ちゃんは、とくにメディア視聴を控えるようにとあります。
「ママも、授乳中や食事中の視聴はやめましょう」と、小児科学会「見直しましょうメディア漬け」にはあります。
また日本眼科医会では、30分に一度は目を休め、20秒以上遠くを見ることをおすすめしています。
参考:小児科学会「見直しましょうメディア漬け」
参考:日本眼科医会「近視啓発冊子 ギガっこ デジたん!大百科」
場所を決める
スマホ利用時のおすすめルール2つ目は、場所を決めることです。アンケートでは以下のようなルールが挙がっていました。
・外出時のみ利用する
・明るいところで離れて見る
ちなみに、動いている乗り物の中でのスマホ利用は、目の負担が大きいため、避けたほうがよいとされています。また、スマホなどのデジタル画面との距離は、30cm以上取ることが望ましいそうです。
参考:子どもたちのインターネット利用について考える研究会「未就学児の情報機器利⽤保護者向けセルフチェックリスト解説シート」
テレビやタブレットを使う
家で動画やゲームを見せる場合は、スマホではなくテレビやタブレットの使用がおすすめです。
なぜなら、スマホで文字を読む際の視距離は平均20cmで、紙媒体やテレビを見るときより近いというデータがあるからです。その結果、目が疲れやすく、近視につながりやすいといいます。
視力低下を予防するためには、できる限り大きな端末を利用することが大切です。かつ、タブレットやパソコンなら30cm以上、フルハイビジョンテレビなら画面の高さの3倍の距離を取ることが推奨されています。
アンケートでも
・携帯やタブレットではなく、テレビに繋いでみる
・遊ぶのはタブレットのみ
という声があがっていました。
参考:日本眼科医会「デジタルデバイスの小児および若年者に与える影響」
親の監視下で使う
親の監視下で使用すれば、時間や場所、姿勢や視聴コンテンツが把握できるので安心です。アンケートでも保護者の監視下で利用させているという声が多かったです。
・近づいたら消す
・ルールを破ればスマホを取り上げる
・キッズ機能だけでアプリなども親管理
また、子供一人でスマホを見せずに親子一緒に見ることで、内容の理解を深めることが可能になります。こうした親子の双方向コミュニケーションは愛着形成にも効果があり、情緒面の安定や自立心の向上につながるといわれています。
参考:ポール・タフ『成功する子 失敗する子 何が「その後の人生」を決めるのか』英治出版
専門家が推奨するスマホ使用を制限する方法
とはいえ、スマホの使用を制限したいと思っても、成長に伴い子どもたちがなかなかルールを守ってくれない場合もあるでしょう。そこで、専門家がおすすめの方法をご紹介します。
【手順】 ①子供の普段通りの生活を記録し、子どものオンライン習慣を把握する ②スマホ使用が及ぼす悪影響やリスクを子どもに説明する ③家族一緒にスマホ利用について話し合う ④簡単に始められるルールを子どもにまずは1つだけ決めてもらう |
ポイントは、子どもがルールを決める際に大人は口を出さないことです。自分で決めたルールの方が納得感があり、守ってくれる可能性が高いからです。
また、家族で楽しみながらルールを守るようにすれば、それ自体が親子の双方向コミュニケーションにつながります。家庭での会話が増えると、子どもの言葉の発達に良い影響があるそうですよ。
参考:川島 隆太「スマホ依存が脳を傷つける デジタルドラッグの罠」宝島社新書
スマホ育児のデメリット
続いて、ママたちはスマホ育児のどんなデメリットを心配して、ルールを決めているのでしょうか。アンケート調査をもとにご紹介します。
依存の可能性がある
スマホ育児のデメリットの第1位:全体の22%のママたちが心配していたのは「依存の可能性」でした。
スマホには魅力的な機能がたくさんついており、いつでもどこでも気軽に楽しむことができます。そして、興味・関心に沿ったコンテンツも次々と表示されます。
その結果、さらなる楽しみを求めて、大人でも長時間使用してしまうことがありますね。脳の発達が未熟な子供の場合は、なおさら自分で制御することができません。
アンケートの失敗談でも、以下のような声があがっていました。
視力の低下
依存の可能性と同じく1位:全体の22%のママたちがデメリットとして心配していたのは「視力の低下」です。
日本眼科医会によれば、スマートフォンで文字を読む際は、紙媒体のときより10cmも顔を近づけているといいます。その結果、ピントを合わせるための努力が紙媒体より1.7倍も必要で、目が疲れやすく、視力の低下につながるといいます。
アンケートの失敗談でも
という声がありました。
姿勢が悪くなる
全体の15%のママたちがデメリットとしてあげていたのは「姿勢の悪化」でした。
前述の通り、スマートフォンで文字を読む際は、紙媒体より10cmも顔を近づけています。そのため、首にも負担がかかり、成長期の子どもたちの姿勢に悪影響が出ることは想像できます。
スマホ使用で姿勢に悪影響があることを「スマートネック」「スマホ首」などと呼び、社会問題にもなっています。さまざまなサイトでも特集ページが組まれているので、聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。
デジタル機器を使用する際は、以下の正しい使い方を守りましょう。
・背筋を伸ばす
・目線を画面に直交する角度にする
・(デスクに座っている場合は)深く腰掛けて両足を床につける
参考:総務省「安心・安全なインターネット利用ガイド」
参考:文部科学省「児童生徒の姿勢に留意してICTを活用するためのガイドブック」
他の遊びに興味を示さなくなる
スマホへの依存度が高くなるほど、他の遊びへの興味は薄れていきます。アンケートでも12%のママがデメリットとしてあげていました。
わが家でも小学生の息子がゲーム好きで、他のどんな遊びよりも優先します。いまだにゲームの終了時間を伝えると不機嫌になりますが、時間制限を徹底するように心がけています。
一方で、毎日の外遊び時間も確保できているのは、サッカーを習っているおかげかもしれません。体を動かすことの楽しさを知れるので、スポーツ系の習い事を取り入れるのはおすすめです。
悪質コンテンツを見る可能性がある
悪質コンテンツを見てしまう可能性がある点も、11%のママがデメリットとしてあげていました。おすすめされた動画をたどっていくと、そのリスクはたしかにあります。
アンケートでも「サムネイルでホラー系の画像が見えてしまいおびえた」という声がありました。
悪質コンテンツの閲覧を防ぐためには、フィルタリング機能で制限することをおすすめします。各携帯会社の公式サイトで利用申請を行うか、アプリストアからご家庭に合うものを使用しましょう。
専門家が語るスマホ育児の影響
最後に、専門家の見解をもとに、スマホ育児がもたらす悪影響を解説していきましょう。
ながら子育て
スマホ育児の大きな問題点は、スマホの長時間使用により親子のコミュニケーションが不足する可能性がある点です。
イギリスの精神分析医らの研究によれば、子どもたちの感情や行動に対して親がしっかりと反応している家庭の子どもは心が安定するといいます。そして、人生のどの段階でも、そうではない子どもたちより自立心旺盛で有能というデータが出たそうです。
一方で、スマホを見ながらの「ながら子育て」は、親子のコミュニケーションの機会を奪う傾向があります。実際に、デジタルメディアの視聴時間が長いほど保護者や兄弟とのコミュニケーション時間は減少する傾向があるようです。
スマホの利用自体に問題があるわけではなく、コミュニケーション不足に気を付けましょう。
参考:ポール・タフ『成功する子 失敗する子 何が「その後の人生」を決めるのか』英治出版
参考:日本小児保健協会「IT の功罪:電子メディアの子どもへの影響とその対応」
子どもの長時間使用
「ながら子育て」に加え、子どもたち自身の長時間利用にも問題があります。
WHOによれば、子どもたちの健康を維持するためには、座りっぱなしの時間を減らしてアクティブな遊びの時間に置き換えていく必要があるそうです。
1歳以下の赤ちゃんや乳幼児に対しては、デジタル機器を極力使用しない。2歳以上では使用時間が1時間を超えないことを推奨しています。
また、東北大学加齢医学研究所の調査では、スマホを1日3時間以上使用する子どもは、睡眠と勉強時間を確保していても成績が平均未満というデータが出たそうです。その後の追跡調査でも、学習に関わる脳領域の発達に悪影響が見られたといいます。
子どもの長時間使用は、発達や成長に悪影響を及ぼす可能性があるため注意が必要です。
参考:WHO(世界保健機関)「5歳未満の子供の身体活動、座りっぱなしの行動、睡眠に関するWHOの新ガイドライン」
参考:川島 隆太(監修)、榊 浩平(著)「スマホはどこまで脳を壊すか」朝日新書
まとめ
テレビで動画やゲームを楽しむのが当たり前だった時代から、スマホの登場でいつでもどこでも利用できる時代になりました。機器が小さくなって便利で魅力的な機能が加わった反面、長時間使用による視力の低下や姿勢の悪化といったデメリットにつながっています。
スマホ育児は、母親の育児と仕事の両立問題や、弧育ての増加といった社会問題にも起因しています。スマホ育児をする母親を責めるのではなく、社会や地域で親子を支援する体制作りが必要なのかもしれません。
ルールを決めて正しい使い方をすれば、メリットも大きいデジタル機器。パパとも連携して家庭でのルールを徹底し、上手に活用したいですね。